「うどん県」こと香川への旅。ガイドブックを片手に有名店を巡り、打ちたて・茹でたての讃岐うどんを堪能した。そのコシの強さ、出汁の香り、天ぷらの美味しさに、きっとあなたも満足したことでしょう。
しかし、もし「旅の思い出がそれだけでは、少し物足りない」「もっと地元の人々に愛される、本物の日常に触れてみたい」と感じているなら、ぜひ知ってほしいお店があります。
香川の西部に位置する三豊市の、のどかな田園風景にひっそりと佇む一軒の「食料品店」。その名も「須崎食料品店」。お菓子や雑貨が並ぶ、昔ながらの「よろずや」さんのような店構えですが、こここそが、全国のうどん好きがわざわざ足を運び、開店前から列をなす「幻のうどんの聖地」なのです。
なぜ、ただの食料品店がそれほどまでに人々を惹きつけるのか?
その答えは、既成概念を打ち破る「究極のセルフ体験」と、一度味わったら脳裏に焼き付いて離れない「圧倒的な麺の存在感」にあります。渡されたうどん玉を自分の手で温め、黄金色に輝くいりこ出汁を注ぎ、薬味を添えて、自分だけの一杯を完成させる。その一連の儀式を経て出会ううどんは、力強いコシと弾力、そして口いっぱいに広がる小麦の豊かな風味で、これまでのうどんの価値観を揺さぶるほどの衝撃を与えてくれます。
「なんだかハードルが高そう…」「独特のローカルルールがあったらどうしよう?」
そんな不安を感じる初めての方でも、どうかご安心ください。この記事は、そんなあなたのための完全ガイドです。これを読めば、迷うことなく幻のうどんにたどり着き、最高の笑顔で「ごちそうさま!」と言えるはず。さあ、香川の食文化のさらに奥深く、忘れられない一杯に出会う旅へと出かけましょう!
なぜ人々は「須崎」のうどんに、心を奪われるのか?
その答えは、お店の成り立ちと、他に類を見ない「食体験」そのものに隠されています。もともとは地域の暮らしを支える小さな食料品店。そこで提供され始めたうどんが、いつしか口コミだけで人を呼び、今や全国からファンが訪れる「聖地」となりました。人々を惹きつけてやまない、その魅力の核心に迫ってみましょう。
① 最高の味を引き出すための「儀式」― 究極のセルフスタイル
「須崎」のセルフは、単に効率的なだけではありません。それは、打ち立ての麺が持つポテンシャルを最大限に引き出すための、食べる側が参加する「儀式」なのです。 店主からうどん玉を受け取った瞬間から、あなたはこの店の厨房の一員。もうもうと湯気が立ち上る大釜の前に立ち、麺を「てぼ」に入れて泳がせる。手に伝わる釜の熱気、立ち上る小麦の香り、湯の中で麺が艶やかにほぐれていく感触…そのすべてが五感を刺激します。 「そろそろかな?」と自分の感覚を頼りに麺を上げ、蛇口から黄金色の出汁を注ぎ、薬味を添える。この一連の手間、非効率とも思える時間が、実は最高のスパイス。自分の手で「育てた」一杯への愛着と期待感は、他のどんな店でも味わうことのできない、須崎だけの特別なご馳走です。
② 主役は麺。記憶に刻まれる圧倒的な生命力
須崎のうどんの主役は、紛れもなく「麺」そのものです。箸で持ち上げると、ずっしりとした重みとしなやかさを感じる極太の麺。一口すすれば、まずその剛健なコシに驚かされます。ただ硬いのではなく、グッと歯を受け止め、押し返してくるような弾力。そして噛みしめるほどに、選び抜かれた小麦粉本来の豊かな甘みと香りが、じわりと口の中に広がります。 この麺の圧倒的な生命力の前では、豪華な天ぷらも必要ありません。「ひや(冷たい麺)」で味わえばその力強い角とコシを、「あつ(温かい麺)」で味わえばモチモチとした食感と小麦の香りを、存分に楽しむことができます。この麺を食べるために、人々は何度でもここへ帰ってくるのです。
③ 麺のために存在する、シンプルを極めただし醤油
これほど力強い麺の最高の相棒となるのが、いりこ風味のだし醤油です。後味は驚くほどすっきりと雑味がなく、透き通るような余韻を残します。 このだし醤油は、決して麺の風味を邪魔しません。むしろ、主役である麺の力強い個性を優しく受け止め、その旨味を何倍にも増幅させてくれる名脇役なのです。シンプルだからこそ、ごまかしが効かない。麺とだし醤油、この二つだけで完結する究極の味わいは、思わず丼を傾けて最後の一滴まで飲み干してしまうほどの完成度を誇ります。
個人的には販売して欲しい一品です。
初めてでも大丈夫!「須崎食料品店」完全攻略マニュアル
初めて「須崎食料品店」の暖簾をくぐる時、誰もが少し緊張するかもしれません。しかし、そのドキドキ感こそ、これから始まる最高のうどん体験への序章です。まるでアトラクションに挑むようなワクワク感を持って、以下のステップを進んでみてください。常連さんの動きをそっと真似するのもコツですよ。
【ステップ1】うどん玉を注文!冒険の始まり
お店に入ると、そこはまさしく「食料品店」。お菓子や調味料が並ぶ棚を通り抜け、お店の奥にあるうどんカウンターへ進みましょう。ここであなたの冒険が始まります。
まずはお店の奥にある、大きな湯気を立てる釜の前へ進み、列に並びます。順番が来たら、店の方に2つのことを伝えてください。
- 麺の温かさ:「温かいの」または「冷たいの」
- うどんの玉数:「小(しょう)」(1玉)または「大(だい)」(2玉)
注文すると、丼に入ったうどん玉を渡してくれます。
白い丼に入った、生まれたてのように艶やかなうどん玉を手渡されます。ずっしりとした重みが、これからの体験への期待感を高めてくれるはずです。
【ステップ2】だし醤油と薬味で、自分だけの一杯を完成させる
うどんが丼に入ったら、次は味付けです。須崎に「かけ出汁」はありません。「だし醤油」をかけて食べるのが基本スタイルです。
- だし醤油をかける:テーブルに置かれただし醤油を、麺に直接かけます。かけ過ぎると辛くなるので、まずは一周ほど回しかけ、味を見ながら調整するのが鉄則です。
- 薬味をのせる:無料のネギ、しょうがをお好みで。
- 【超おすすめ】生卵を投入!:有料の生卵(玉子)は、ぜひ試してほしいトッピング。温かいうどんに絡めれば、絶品の「釜玉うどん」が完成します。
【ステップ3】隣の食料品店で、惣菜ピックアップ&お会計
うどんが完成したら、お会計です。
隣接する食料品店のスペースに、ちくわの磯部揚げやコロッケなどの美味しそうな惣菜が並んでいます。食べたいものがあれば、自分のお皿に取りましょう。
うどんと取った惣菜を持って、食料品店のレジへ進み、食べたものをすべて自己申告して料金を支払います。この信頼に基づいたシステムも、お店の魅力の一つです。
【ステップ4】いざ実食!そして返却へ
お会計が済んだら、店内の席や、外に用意されたベンチで、景色を楽しみながらいただきましょう。自分で作り上げた一杯は、きっと格別な味がするはずです。
食べ終わったら、器をレジ(会計をした場所)へ返却して、ごちそうさま!お疲れ様でした。
須崎うどんを120%楽しむ!おすすめの食べ方講座
須崎のうどんは、シンプルな故に奥が深い。どの食べ方も絶品ですが、特におすすめしたい「王道スタイル」を3つご紹介します。その日の気分や好みに合わせて、あなただけの一杯を見つけてください。
① 至福の濃厚体験!「釜玉(かまたま)うどん」
《こんな人におすすめ》
- 初めて須崎を訪れる方
- 濃厚でクリーミーな味わいが好きな方
- 須崎の魅力を凝縮して味わいたい方
須崎を訪れた多くの人が虜になる、まさに「王道にして頂点」の食べ方。温かく湯がいた麺の熱が、新鮮な生卵を絶妙な半熟状態へとろけさせます。
【作り方のコツ】
- 「温かいの」で注文し、自分で湯がいた熱々の麺を丼へ。
- 間髪入れずに生卵を中央に割り落とします。
- だし醤油を「円を描くように、ひと回し」だけかけます。
- あとは、麺が冷めないうちに、丼の底から全体を力強く、そして素早くかき混ぜてください!
【味わい】
力強い麺の一本一本に、とろりとした卵黄とだし醤油がコーティングされ、口に入れた瞬間に小麦の甘み、卵のコク、醤油の香ばしさが一体となって押し寄せます。まるで「和製カルボナーラ」のような濃厚でまろやかな味わいは、一度体験したら忘れられません。麺そのものの力強さが、この濃厚な味付けをしっかりと受け止め、最高のバランスを生み出します。
②小麦の香りに癒される。「温かいしょうゆうどん」
《こんな人におすすめ》
- 寒い日や、心も体もホッと温まりたい方
- 麺のモチモチとした食感と香りを楽しみたい方
- 優しい味わいが好きな方
自分で湯がいた温かい麺を、シンプルにだし醤油だけでいただくスタイル。冷たい麺とはまた違う、麺の優しさと奥深さに気づかされます。
【作り方のコツ】
- 「温かいの」で注文し、自分で湯がいた麺を丼へ。
- 立ち上る湯気とともに、だし醤油を回しかけます。醤油が熱せられて広がる香ばしい匂いが、食欲をそそります。
【味わい】
温められることで、麺はふんわり、もっちりとした優しい食感に変化します。そして、冷たい麺以上に小麦の甘い香りが豊かに立ち上るのが特徴です。力強いコシが魅力の須崎うどんですが、その麺が内に秘めた「優しさ」や「甘み」を感じられる、通な食べ方とも言えるでしょう。
【応用編】
どの食べ方でも、隣の食料品店で買った「ちくわの磯部揚げ」を乗せれば、ボリュームも満足度も格段にアップします。だし醤油が染みた揚げ物は、うどんとの相性も抜群ですよ!
③ 麺の真髄を知る!「冷たいしょうゆうどん」
《こんな人におすすめ》
- 讃岐うどんの「コシ」を何よりも楽しみたい方
- 麺本来の風味をダイレクトに感じたい方
- さっぱりとシンプルに味わいたい方
これぞ究極のシンプル・イズ・ベスト。「冷たいの」で注文した麺は、水でキリッと締められ、その角が立ち、美しい輝きを放ちます。須崎の麺が持つポテンシャルを最もダイレクトに感じられる食べ方です。
【作り方のコツ】
- 「冷たいの」で注文し、受け取った麺にそのまま、だし醤油をかけます。
- 薬味のしょうがを少し多めに加えるのがおすすめです。キリッとした辛味が、麺の味をさらに引き立てます。
【味わい】
箸で持ち上げた時の重量感、そして口にした瞬間の、グッと沈み込むような剛健なコシ。噛みしめるたびに、麺の中心から小麦の豊かな香りが広がります。余計なものがないからこそ、麺そのものが主役として際立ち、作り手のこだわりと情熱を舌で感じることができます。「須崎の麺はすごい」と、心から唸るはずです。
幻のうどんを逃さない!訪れる前の「5つの心構え」
「須崎食料品店」での一杯は、間違いなく最高の旅の思い出になります。しかし、その幻のうどんに確実にありつき、心から楽しむためには、いくつか知っておきたい大切なポイントがあります。事前にチェックして、万全の態勢で臨みましょう!
心構え1:時間との戦いを制する【営業時間】
須崎攻略の最重要ポイントは「時間」です。公式の営業時間は「9:00頃~11:30頃」ですが、これはあくまで目安。**「麺がなくなり次第、即終了」**という厳しい現実を心に刻んでください。
- 麺切れは突然に:その日の状況次第ですが、平日でも11時前、休日や連休には開店から1時間ほどで麺がなくなることも珍しくありません。お店に着いたのに「終了」の看板…という悲劇を避けるためにも、とにかく早めの行動が鉄則です。
- 目指すは開店アタック!:可能であれば、開店時間の9時、あるいはそれより少し前に到着するくらいの気持ちで計画を立てるのが最も確実です。「お昼ごはんに」という考えは捨て、最高の「朝うどん(朝ラーならぬ朝うー)」を食べに行く、と心に決めましょう。
心構え2:駐車はスマートに、思いやりを持って【駐車場】
お店の周りには数台分の駐車スペースがありますが、決して広くはありません。開店時間近くになると、あっという間に満車になります。
- 乗り合わせ推奨:複数人で訪れる場合は、できるだけ1台の車に乗り合わせて向かうことを強くおすすめします。
- 駐車マナーは厳守:駐車する際は、必ず白線内に停め、他の車や近隣の方の迷惑にならないよう最大限の配慮を。路上駐車は絶対にやめましょう。譲り合いの精神が、気持ちの良いうどん体験に繋がります。
心構え3:郷に入っては郷に従え【お店のルール】
これまでのマニュアルでも触れましたが、須崎ならではのユニークなルールを再確認しておきましょう。
- 究極のセルフサービス:注文から麺の湯がき、味付け、配膳まで、すべて自分で行います。
- 会計は隣の食料品店で:うどんを食べ終わったら(または食べる前に)、隣の食料品店のレジで自己申告会計です。
- 小銭の準備を:お会計をスムーズにするため、千円札や小銭を用意しておくとスマートです。
心構え4:戦闘準備は万端に【服装・持ち物】
最高のパフォーマンスでうどんと向き合うために、服装や持ち物にも少し気を配りましょう。
- 服装:釜の前に立つとかなりの熱気を感じます。また、だし醤油が跳ねる可能性も。高価な服やおしゃれ着は避け、汚れてもよく、動きやすいカジュアルな服装がベストです。行列や外の席で食べることも想定し、夏は帽子などの暑さ対策、冬は羽織るものなどの寒さ対策も忘れずに。
- 持ち物:
- ハンカチ、ウェットティッシュ:だし醤油が手についたり、口元を拭いたりするのに重宝します。
- 飲み物:特に夏場、行列に並ぶことを考えて、熱中症対策に持参すると安心です。
心構え5:万が一に備える【定休日】
お店の定休日は火曜、水曜日です。しかし、それに加えて臨時休業の可能性もゼロではありません。遠方からわざわざ訪れる場合は、念には念を入れて計画を立てましょう。せっかくの旅が残念な結果にならないよう、事前の確認が大切です。
公式ホームページでご確認ください。
https://www.suzaki-udon.com/home
「須崎食料品店」へのアクセス
のどかな田園風景の中に、そのお店はあります。初めての方は少し迷うかもしれませんが、それも旅の醍醐味。カーナビやGoogleマップを頼りに向かいましょう。
店舗名、、、須崎食料品店 (すざきしょくりょうひんてん)
住所、、、〒767-0014 香川県三豊市高瀬町上麻3778
電話番号、、、0875-74-6245
営業時間、、、9:00頃 ~ 11:30頃 ※麺がなくなり次第、早めに終了します
定休日、、、火曜、水曜日 ※臨時定休もあるため公式ホームページでご確認ください
まとめ:さあ、あなただけの「うどん物語」を紡ぎに出かけよう
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。香川の奥深い食文化を体現する「須崎食料品店」の魅力、そしてその独特な世界の歩き方が、少しでも伝わりましたでしょうか。
須崎食料品店は、単にうどんを食べるだけの場所ではありません。それは、うどん店という名の**「体験型アトラクション」であり、自分自身が主役となって最高の一杯を作り上げる「食のエンターテイメント」**なのです。
もうもうと湯気が立ち上る釜の熱気、ずっしりと重みを感じる打ちたての麺、香ばしいだし醤油の香り、そして常連さんたちの活気。初めての訪問は少しドキドキするかもしれません。しかし、この記事をここまで読んでくださったあなたなら、もう大丈夫。戸惑うことなく、そのディープで温かい世界に飛び込んでいけるはずです。
自分の手で麺を湯がき、魂を吹き込む。その一連の儀式の末に出会ううどんは、きっとあなたの「人生最高のうどん」の一つになるでしょう。力強い麺の生命力を噛みしめ、卵と醤油が絡み合う至福の「釜玉」をすする瞬間、きっとこう思うはずです。「ここまで来て、本当によかった」と。
この幻のうどんを味わうためだけに、香川を旅する価値は十分にあります。そして、須崎のある三豊市には、天空の鳥居で知られる「高屋神社」や、日本のウユニ塩湖と称される「父母ヶ浜」など、心震える絶景スポットも数多く存在します。
最高の朝うどんで一日を始め、美しい景色を巡る。そんな、あなただけの特別な香川旅行を計画してみませんか?
さあ、このガイドをポケットに入れて、幻のうどんを巡る忘れられない冒訪へ。須崎食料品店での一杯が、あなたの旅を最高の思い出で彩ってくれることを願っています。