高松旅の締めくくりに。昭和の香り漂う松下製麺所でうどんをすする

うどん巡り

本場讃岐うどんの心を味わう旅 ー高松市・松下製麺所ー

香川県・高松市は「うどん県」として名高く、数多くの讃岐うどん店がひしめく地ですが、その中でも「松下製麺所」はひときわ強い個性と温かさを持った名店です。地元民から愛され続け、観光客にとっても“本場の空気”を体験できる絶好のスポットとなっています。

昭和の香り漂う、素朴であたたかな製麺所

松下製麺所の戸を開けた瞬間、タイムスリップしたかのような感覚に包まれます。
そこに広がるのは、観光地らしいきらびやかさではなく、毎日を生きる人たちが自然に集い、静かに食を楽しむ、昭和の生活感に満ちた空間。旅の中でふと足を止めて、呼吸をゆるめられるような場所です。

◉ 古びた木の床と、年季の入ったのれん

入口をくぐると、踏みしめる床板は、長年にわたり無数の足が通り過ぎたことを物語るような艶を帯びています。
壁にかけられた手書きのメニュー札、少し色あせたのれん、ゆるやかに回る天井の扇風機。全てが「今のために用意されたもの」ではなく、「昔からそこにあったもの」であることが、空気から伝わってきます。

飾り気のないテーブルと長椅子。その無骨さが、逆に温かく感じられるのは、人々の生活の中に自然に溶け込んでいるからこそです。

◉ 静かな時間が流れる、懐かしさの空間

店内に響くのは、麺をすする音、鍋の湯気が立ち上る音、うどんを湯切りする音。
会話も必要最低限で、必要な言葉だけが交わされる静かな空間には、不思議と安心感があります。

この「静けさ」こそが、昭和の空気感。テレビやBGMに頼らず、目の前のうどんと向き合う時間を、丁寧に過ごすことができます。
観光客であっても、ここでは誰もが“日常の一部”となり、そこに違和感はありません。

◉ 地元と旅人が交差する、あたたかい場

カウンターの奥では、熟練の職人たちが黙々とうどんを茹で、麺を整えています。派手なパフォーマンスはありません。けれど、その一つひとつの動作から「確かな手仕事」の重みが伝わってきます。

常連のおばあちゃんが慣れた足取りでうどんを選び、学生たちが部活帰りに笑顔で立ち寄り、時には観光客が少し戸惑いながらも楽しそうに並ぶ――そんな交差する時間の中に、「人の温かさ」と「まちの暮らし」が自然とにじみ出ています。

◉ 無言の“おもてなし”がある場所

接客は必要最低限。でも、そこには冷たさは一切ありません。
無言のうちに「一見さん」への配慮が感じられる眼差し、軽くうなずくような所作。
言葉ではなく空気で伝わる“歓迎”が、松下製麺所にはあります。

どこか懐かしいけれど、観光客にとっては新鮮――この“昭和のぬくもり”が、多くの旅人の記憶に深く残る理由です。

昭和という時代の続きが、ここにある

松下製麺所は、単なる「古い建物」ではありません。
それは、時代が流れても変わらぬ生活のリズムと、人の手から生まれる味が息づく、“生きている昭和”の一部なのです。

観光の途中、最新のスポットや華やかなグルメに少し疲れたときこそ、この製麺所の暖簾をくぐってみてください。
そこにあるのは、懐かしくて優しい時間。うどん一杯の奥に、香川の暮らしと心を感じるひとときが待っています。

自分で選ぶ楽しさ ― セルフサービスの流儀

松下製麺所のもう一つの魅力は、「セルフスタイル」という讃岐うどん文化の醍醐味を、そのまま体験できることにあります。
これは単なる注文方法ではなく、旅人が地元の生活リズムに一瞬だけ溶け込むことができる、ちょっとした“参加型文化体験”です。

◉ 初めてでも大丈夫 ― 流れを楽しむ

  1. 入店してまず麺を注文する
     お店に入ると、すぐ目の前にあるカウンターで「うどん」または「中華そば」を注文。麺の量は「小」「中」「大」と選べます。
     讃岐では「小=1玉」「中=2玉」「大=3玉」が一般的。観光でうどん店を何軒も巡る予定の方は、まずは「小」から始めてみるのがおすすめ。

  2. うどんを受け取る
     注文すると、目の前で手際よく麺が茹でられ、湯切りされ、丼に入って渡されます。この一連の流れを見るのも楽しいポイントの一つ。厨房との距離が近いため、職人技を間近で感じることができます。

  3. 出汁・トッピングを自分で選ぶ
     次に向かうのが出汁とトッピングのコーナー。
     温かい「かけ出汁」や、冷たい「ひや出汁」などを、自分の好みに応じて注ぎます。
     その後、刻みネギ、生姜、天かす、ごまなどの薬味を自由にトッピング。ここで自分だけの“マイうどん”を作り上げるのが、セルフスタイル最大の楽しみです。

  4. お会計は最後に
     サイドメニュー(天ぷらやおにぎり)を取った場合は、それらを持って会計へ。
     昔ながらの手作業での計算が、素朴でどこか懐かしい雰囲気を演出してくれます。

  5. 店内で食べる or 外で楽しむ
     店内にはテーブル席が用意されており、朝や昼時には地元の常連と観光客が同じ空間で静かにうどんをすする光景が見られます。
     また、晴れた日にはうどんを持って外で食べるのもおすすめ。香川の穏やかな空気の中で味わう一杯は格別です。

◉ “選ぶ楽しみ”が旅の思い出になる

讃岐うどん店のセルフスタイルには、「自分の一杯を自分で完成させる」という小さな達成感があります。
どの薬味を、どのくらい入れるか。どんな天ぷらを合わせるか。
そうした“選ぶ工程”があることで、うどんは単なる食事ではなく、旅の体験へと昇華します。

同行者と「私はネギ多め」「そっちは天かす派?」なんて会話が生まれるのも、こうしたスタイルならでは。旅の記憶に残る一杯を、ぜひ自分の手で作ってみてください。

◉ 気軽さと文化が融合したスタイル

松下製麺所のセルフスタイルは、肩肘張らずに讃岐の文化を体験できる絶好のチャンスです。
「観光客向けの演出」ではなく、日常の営みに自然に入っていける感覚。
うどんを通して、ほんの少しだけ“地元の人の目線”に立てること――それが、この店が観光客からも愛される理由の一つです。

定番から変わり種まで ― メニューも奥深い

松下製麺所の魅力は、何といっても讃岐うどん本来の美味しさを「素のまま」で味わえる点にあります。しかしそれだけでなく、ここには地元の人々に長年親しまれてきた“変わり種”メニューや、ちょっと意外な組み合わせまで存在し、訪れるたびに新しい発見があります。

◉ 王道 ― 讃岐うどんの基本がここにある

シンプルながら完成された味、それが松下製麺所のうどんの本質です。
打ちたて・茹でたて・締めたての麺は、つるりとした喉ごしと、噛むとしっかり跳ね返してくるコシを併せ持ちます。
特に、イリコ(煮干し)ベースの出汁は透明感がありつつ、しっかりと旨味を感じさせ、飲み干せるほど優しい味わい。あえて具材は最小限にして、素材の良さを感じさせる構成です。

観光客には「かけうどん(温)」や「ひやかけ(冷)」がおすすめ。香川ならではの“冷たい出汁に冷たい麺”のスタイルは、暑い時期の名物です。

◉ 常連に人気 ― 意外な名物「中華そば」

製麺所でありながら提供されている「中華そば」は、実は隠れた人気メニュー。
懐かしい昭和の香り漂う醤油ベースのスープに、しなやかな中華麺。軽やかな味付けは朝からでもすっと胃に入る、地元の人たちの日常の味です。

観光客には少し意外かもしれませんが、「うどん県の製麺所でラーメンを食べる」というギャップが、むしろ旅の思い出を深めてくれます。

◉ 試してほしい裏メニュー ― “うどん×中華”のミックス

通な常連が密かに注文するのが「うどんと中華そばのミックス」。一つの丼に、讃岐うどんと中華麺の両方を入れて提供される、ある種の“文化融合メニュー”です。
食感も味もまったく異なる二つの麺を、一つのスープで味わう不思議な体験。讃岐うどんのもっちり感と中華麺の滑らかさが交互に現れ、一杯で二度美味しい“驚きの一杯”です。

観光客には思い切って「中・ミックス」と注文してみるのも一興。旅先でしかできない、チャレンジ精神くすぐる一品です。

◉ セルフトッピングで“自分流”に

松下製麺所では、うどんの上に乗せる具材はセルフで選べるスタイル。
ネギ、天かす、生姜などの基本トッピングのほか、揚げたての天ぷらやおにぎりなども並び、自由に組み合わせて自分好みの一杯を作ることができます。

おすすめは、出汁の風味を壊さないよう少量ずつ加える「引き算の美学」。特に初めて訪れる場合は、まずはシンプルに楽しみ、その後でトッピングを足して味の変化を楽しむのが通な楽しみ方です。

◉ 価格も“昭和価格”のまま

もう一つ注目すべきはその値段。現在でもうどん一杯が数百円台で提供されており、物価高騰の時代にあっても財布に優しいのが嬉しいポイント。
観光で何軒かうどん巡りをしたい方にとっては、1杯を軽めに楽しめるこの価格設定は大きな魅力です。

“つくる”から“食べる”へ ― 主体的なうどん旅を

松下製麺所のセルフサービスは、讃岐うどん文化の核を体感できる仕組み。
自分の手で一杯のうどんを仕上げるというシンプルな行為の中に、香川という土地のあたたかさや、日常の豊かさが詰まっています。
旅の一コマとして、ぜひその一歩を踏み出してみてください。

食の奥深さを讃岐うどんで知る

松下製麺所のメニューは、一見シンプル。しかし、その一つひとつには、地元の暮らしと文化が深く息づいています。讃岐うどんを食べるという行為が、ただのグルメ体験を超え、香川という土地の“日常”を味わう文化体験となる――それがこの製麺所の持つ本当の奥深さです。

観光客にとっての“うどん体験”

香川を訪れる多くの観光客の目的の一つが、「本場の讃岐うどんを味わうこと」。しかし、その体験の中でも松下製麺所が提供しているのは、ただうどんを“食べる”ことではなく、“讃岐の暮らしを感じる”ことそのものです。

◉ まるで地元民になったような感覚

観光客向けに装飾された店舗ではなく、松下製麺所は今も昔も変わらぬ姿で、地域の人々にうどんを提供し続けています。常連の人たちが自然体で立ち寄り、無言で「小」とだけ伝えて一杯のうどんをすする様子は、まさに讃岐の日常そのもの。

そんな場所に観光客として足を踏み入れると、どこか緊張しつつも、歓迎されているような、温かな空気を感じるはずです。
厨房から聞こえる湯切りの音、湯気の向こうの職人の真剣な眼差し、そして静かに味わう地元の人たちの姿――そのすべてが“リアルな讃岐”の一部なのです。

◉ 自分で仕上げる、うどんの一杯

松下製麺所では、セルフスタイルが基本。うどんの玉数を伝え、自分で出汁を注ぎ、薬味を盛りつけます。その過程にこそ、体験としての価値があります。

「どれくらいネギを入れるか」「天かすをたっぷりにするか、控えめにするか」――ちょっとした選択が自分だけの一杯を作り上げていく。その体験が、旅に彩りを加え、記憶に深く刻まれます。

子ども連れの家族や、友人との旅でも、こうした“作って食べる”工程は話題になり、旅の会話を弾ませてくれます。

◉ 食べ終わった後に残る“温度”

松下製麺所のうどんを食べ終えた時、不思議と心がほぐれている自分に気づくでしょう。
それは、出汁の温もり、空間のやさしさ、人との距離感の近さといった、すべての“ぬくもり”が積み重なったもの。決して豪華な体験ではありませんが、心をそっと癒やしてくれる確かな満足感があります。

お店を出て、次の観光地へ向かう道すがら、ふと振り返ってまた行きたくなる――そんな余韻を残す体験になるはずです。

松下製麺所での“うどん体験”は、単なるグルメ目的ではなく、香川という土地の空気や人情を全身で感じる文化体験です。
もしあなたが“本場の味”だけでなく、“本場の心”にも触れてみたいと思うなら、この場所はきっと忘れられない旅の1ページとなるでしょう。

アクセス・基本情報

  • 住所:香川県高松市中野町2-2

  • アクセス:JR「栗林公園北口駅」から徒歩約8分

  • 営業時間:朝7:00〜15:00(※麺がなくなり次第終了)

  • 定休日:日曜

  • 駐車場:あり(9台分)

  • 公式サイトhttps://www.matsushita-seimen.jp

周辺観光と合わせて楽しむ

松下製麺所は、高松市の中心部に位置し、徒歩圏内やアクセス良好な場所に多くの観光スポットが集まっています。うどんを味わった後、または観光の合間に立ち寄ることで、より充実した香川旅を演出できます。

◉ 栗林公園(りつりんこうえん)[徒歩約10分]

日本三名園にも匹敵すると称される、国の特別名勝「栗林公園」。広大な敷地に6つの池と13の築山が広がり、四季折々の景色が楽しめます。春は桜、初夏は菖蒲、秋は紅葉と、いつ訪れても違った風情があります。
早朝の清々しい空気の中を散策した後、松下製麺所で朝うどんを食べるという流れもおすすめです。

◉ 高松市美術館[徒歩約15分]

現代美術を中心に多彩な展示を行う美術館。静かな館内でアートに触れた後、素朴なうどんの味でほっと一息つくのもいいコースです。特に、アート好きの方にはおすすめの組み合わせです。

◉ 瓦町FLAG(かわらまち・フラッグ)[徒歩約10分]

高松市の若者文化と商業の中心地「瓦町エリア」にある大型商業施設。ショッピングやカフェ巡りの合間に、昔ながらのうどん店を訪れることで、街の“今と昔”を一度に体験できます。

◉ ことでん乗車体験と「高松築港駅」周辺[電車で約10分]

レトロな雰囲気で人気の高松琴平電気鉄道(ことでん)に乗って、街を走る電車旅もおすすめ。築港駅周辺には、玉藻公園(高松城跡)や港の風景が広がり、散歩にもぴったりです。
松下製麺所からことでん「栗林公園駅」まで徒歩約5分、そこから数駅でアクセス可能です。

◉ 仏生山温泉[電車で約25分]

うどんでお腹を満たしたあとは、温泉で旅の疲れを癒やすのもおすすめ。モダンで洗練された建築が特徴の「仏生山温泉」は、地元の人にも人気の癒しスポットです。うどんと温泉――香川ならではの最高の組み合わせです。

松下製麺所は、ただのうどん店ではなく、香川観光を“地元目線”で体験できる貴重なスポット。名所巡りの合間に立ち寄ることで、観光だけでは味わえない香川の「日常」に触れることができます。

観光地とローカル文化。その橋渡しとして、ぜひ松下製麺所を旅の行程に組み込んでみてください。

旅の締めに、あたたかいうどんの記憶を

旅の終わりには、どこか心を落ち着かせてくれる「味」との出会いがあると、その旅は一層記憶に残るものになります。
松下製麺所のうどんは、まさにそんな存在です。

出汁の湯気に包まれた一杯を前にすると、香川で過ごした時間や、街の風景、人々の笑顔が、自然とよみがえってくるようです。讃岐の海風、石畳の路地、栗林公園の静けさ――それらが全て、この一杯に溶け込んでいるような、そんな感覚になります。

どこか懐かしく、飾らない味。特別な食材や派手な演出はありません。けれど、麺をすする音、出汁の香り、店主の一言が、旅の最後にふさわしいやさしさで心を包んでくれます。

旅の締めくくりに「松下製麺所」でうどんをすする。それは、単なる食事を超えた、香川という土地と静かにつながる“儀式”のような時間です。そして、そのあたたかい記憶は、きっとまたあなたをこの街へと導いてくれるでしょう。